古武術を介護に応用する

古武術を格闘技としてではなく、他の分野に活用しようという動きがいくつかあります。その中でも、最近、特に注目されているのが、古武術の身体運用法による老人介護の省力化ということでしょう。

古武術を介護に応用する(つづき)

老人介護の現場は、女性が多いことや、人手不足の影響から、とくに重労働の職場であることが知られています。寝たきりやそれに近い状態の老人の服を着替えさせたり、お風呂に入れたりするのは、屈強な男性でもなかなか骨の折れる作業になります。

そういった職場に、古武術の技術を取り入れることによって、介護福祉にあたる人に少しでも楽をしてもらおうということなのですが、具体的にはどのようなものがあるのでしょう。

例えば、寝ている人を抱きかかえて起こすというのは、従来の介護のマニュアルでも、基本的に二人がかりで行なうのが基本とされています。老人が、自分の足で踏ん張ったりできないわけで、完全に脱力した人を起こすというのは、そもそも抱えるだけでも大変な作業です。

それが、古武術の考え方を応用すると、女性一人だったり、あるいは子供一人でも抱え起こすことができるようになります。

やり方はいろいろあるのですが、上半身を起こして長座(足を伸ばして座った状態)にしたあと、背中のほうから介護が必要な人の脇の下に腕を差し入れ、抱えるようにします。このとき、両手をぐっと組むのではなく、片腕を他方の手の中指とくすり指だけで保持します。このほうがより力が入るそうです。

そして自分と相手の体を密着させ、足の裏を床にしっかりとつけ、斜め後方に重心を移動するように立ち上がると、不思議と相手も自分と一緒に起き上がります。

こういった古武術独特の、相手の体重を利用した身体運用法が介護現場に取り入れられつつあります。

岡田慎一郎

岡田慎一郎氏は介護福祉士の一人です。

老人介護の現場は女性が圧倒的に多いわりに、力仕事が多く、きつい職場として知られています。そういった介護現場の現状や介護技法などに疑問を提唱した一人として岡田慎一郎氏が知られています。

岡田慎一郎氏は、元々、総合格闘技を趣味として実践しており、そこから培ったカラダの動かし方を介護にも応用していたそうですが、そんな中で、古武術研究家として有名な甲野善紀氏と出会い、介護に古武術の考え方をミックスすることを進めていくことになります。

介護

介護と武術というのは一見すると結びつきがなさそうに思えますが、例えば古武術の一つ柔術を現代武術である柔道の創始者嘉納治五郎の言葉として有名な「柔よく剛を制す」というのも、柔弱なものが剛強なものを負かすという意味で使われます。

例えば、体重が軽い人でも、自分の体重以上の人を体の運用の仕方で投げ飛ばせるのが柔道の醍醐味の一つです。こういった意味で、あまり力のない女性や子供でも、老人を立ち上がらせたり、移動したりといったことに古武術の考え方を応用することはできるのです(実際には柔よく剛を制すというのは嘉納治五郎氏の独創ではなく、中国の故事成語に由来するものだそうですが)。

実際に、古武術介護では、介護にあたる側のメリットは非常に大きく、通常の介護方法では二人がかりが基本だった寝ている老人を立たせるという動きも、一人の力でできるようになったりします。

逆に介護を受けるほうは、やや重心が失われることから、動作ごとに若干の恐怖感があるようですが、慣れにより解消されますし、なによりも強引に力で立ち上がらされるよりは体の負担も小さいとされています。


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